ゾラとモーパッサン

Zola et Maupassant



Zola est, en littérature, un révolutionnaire, c'est-à-dire un ennemi féroce qui vient d'exister.
Quiconque a l'intelligence vive, un ardent désir de nouveau, quiconque possède enfin les qualités actives de l'esprit est forcément un révolutionnaire, par lassitude de choses qu'il connaît trop.
(« Émile Zola » (1883), in Maupassant, Chroniques, U.G.E. coll. « 10/18 », 3 vol., 1980, t. II, p. 311.)

 「ゾラは文学における、一人の革命家である。すなわち既に存在するものに対して容赦なく敵対する者であるのだ。
 生き生きとした知性、新しいものに対する熱烈な欲望を持つ者は誰でも、つまりは精神を活発に働かせる者は誰でも、否応なく革命家となる。彼があまりにも知りすぎている物事に対する倦怠の故に。」
(「エミール・ゾラ」、1883年)

 1840年生まれ、10歳年長のエミール・ゾラは、モーパッサンにとってよき友である以上に、文学における大先輩であった。自然主義文学の旗手として飽くことなく論陣を張りつづけ、遂にこれを世間に広く認知させるに到ったゾラの功績を、モーパッサンは評論において賞賛を込めて語っている。
 さて、モーパッサンは自然主義者であったか。この問いに対する答えは同時に oui であり non であるだろう。1880年代に文学活動を行った作家は、当然時代の潮流である自然主義文学と切っても切れない縁にある。従来の文学が取り上げなかった下層の民衆を好んで主題に取り上げたこと、伝統的心理描写を嫌って、人間を生理的・欲望の次元において捕らえようとした姿勢。多くの点においてモーパッサンは紛うことなく自然主義の時代の中にいる。もとよりモーパッサンのデビュー作『脂肪の塊』が掲載されたのは、ゾラを中心とする自然主義者達の集まりから生まれた『メダンの夕べ』であった。
 その宣伝文の中でモーパッサンは自分達の描くものはただ「人間と人生」 l’Être et la Vie であると述べているが、ゾラの文学を語った以下の言葉においても、むしろ彼自身の文学観をこそ示しているかのように思われるほどである。

Sa théorie est celle-ci : Nous n'avons pas d'autre modèle que la vie puisque nous ne concevons rien au-delà de nos sens ; par conséquent, déformer la vie est produire une œuvre mauvaise, puisque c'est produire une œuvre d'erreur. [...]
Conclusion : Tout ce qui n'est pas exactement vrai est déformé, c'est-à-dire devient un monstre.
(Ibid., p. 313)

「彼の理論とは以下のものである。すなわち、我々のモデルとしてはただ人生しかないが、それというのも我々は自分の感覚を超えたものを思い描くことは出来ないからだ。結果として、人生を歪めることは、良くない作品を産み出すことになる。それというのも、それは誤った作品を作ることだからだ。(略)
 結論を述べよう。正確に真実でないものは、歪められたものであり、すなわちそれは怪物じみたものとなるのである。」
(同)

 それでもモーパッサンを単純に自然主義者であるとする訳にはいかない。フロベールの弟子として作家の自由と独立を何より重んじた作家は、特定の流派に属することを拒んだ。また、実験・観察といった科学的精神に忠実であろうとするゾラの姿勢とは明確に一線を画し、彼のように膨大な資料の蒐集や現地取材を行うことは、モーパッサンにはなかった。

Que dites-vous de Zola ? Moi, je le trouve absolument fou. Avez-vous lu son article sur Hugo ? Son article sur les poètes contemporains et sa brochure La République et la Littérature. « La République sera naturaliste ou elle ne sera pas. » - « Je ne suis qu'un savant » !!! (Rien que cela ! Quelle modestie.)
(À G. Flaubert, le 24 avril 1879, in Correspondance, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. I, p. 218)

「ゾラに関してどうおっしゃいますか? 私は、彼はまったくどうかしていると思います。ユゴーについての記事を読まれましたか? 現代詩人に関する記事と『共和国と文学』という小冊子のことです。「共和国は自然主義的なものとなろう。さもなくば存在しないだろう」-「私は学者でしかないのだ」!!!(ただそれだけとは!なんという謙遜でしょう)」
(1879年、4月24日付、フロベール宛書簡)

 83年のゾラ紹介の記事においても、作者は手放しにゾラ文学を賞賛しているわけではない。そしてモーパッサンの冷静な視線は、それ故にゾラ文学の特質を的確に捉えてもいる。

Mais fils des romantiques, romantique lui-même dans tous ses procédés, il porte en lui une tendance au poème, un besoin de grandir, de grossir, de faire des symboles avec les êtres et les choses. Il sent fort bien d'ailleurs cette pente de son esprit ; il la combat sans cesse pour y céder toujours. Ses enseignements et ses œuvres sont éternellement en désaccord.
Qu'importent, du reste, les doctrines, puisque seules les œuvres restent ; et ce romancier a produit d'admirables livres qui gardent quand même, malgré sa volonté, des allures de chants épiques.
(« Émile Zola », op. cit., p. 314.)

「しかしロマン主義の子孫として、その手法において自身ロマン主義者でもある彼は、自らの内に詩への傾向、拡大し、誇張し、存在や事物から象徴を作り出す傾向を持っている。一方で彼自身、自分の精神のこうした習性を感じていもする。彼は絶えずそれを押さえつけようとしていながら、いつもそれに屈してしまうのだ。彼の教訓と実際の作品との間には永遠に不調和が存在する。
 しかしながら教義など何であろうか。ただ作品だけが残るのであってみれば。そしてこの小説家は賞賛すべき作品を産み出してきたが、それは彼の意に反して、叙事詩の様相を呈しているのである。」
(「エミール・ゾラ」)

  その傑出した才能を十分に認めながら、しかし自らの独立を維持しつづける。自然主義文学に対して常に距離を置きつづけることによって、モーパッサンはメダンの一派としてゾラの亜流に埋没することなく、自身のオリジナリティーを獲得するに到った。彼の作品が今も読まれつづける理由の一端を、そこに窺うことが出来るだろう。

Mais surtout, surtout, n'imitez pas, ne vous rappelez rien de ce que vous avez lu ; oubliez tout, et (je vais vous dire une monstruosité que je crois absolument vraie), pour devenir bien personnel, n'admirez personne.
(À Maurice Vaucaire, 1886 ?, in op. cit., t. II, p. 212.)

 「しかしとりわけ、とりわけ、模倣してはいけません。以前に読んだものを思い出したりしてはいけないのです。全てを忘れることです。そして(私が言わんとすることは途方もないことですが、私はそれが絶対的に真実だと信じているのです)、十分に個性的になるためには、“誰も崇めてはいけません”。」
(1886年?、モーリス・ヴォケール宛書簡)






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