『モーパッサンの修業時代
作家が誕生するとき』刊行

La parution des Années d'apprentissage de Maupassant



『モーパッサンの修業時代 作家が誕生するとき』表紙  2017年10月に、足立和彦『モーパッサンの修業時代 作家が誕生するとき』を水声社より刊行することができた。
 これは、2012年2月にパリ第4大学に提出・受理された博士論文の前半部(および後半の1部)を日本語に翻訳し、大幅に推敲し直したものである。以下に要旨を掲載する。

 本書は、19世紀の作家ギィ・ド・モーパッサン (1850-1893) の青年時代の著作(詩・戯曲・小説)の分析を通して、一人の作家が〈誕生〉するとはどういうことかを考察するものである。従来、習作として十分に顧みられなかった作品を総合的に検討することで、青年の成長過程を詳細に跡づけ、作家研究および作品研究の両面に寄与することを目ざしている。
 本書は3章(および序章・終章)からなる。第1章「ポエジー・レアリスト」では、1870年代の活動の中心に位置した韻文詩を扱う。当時まだ影響の大きかったロマン主義を偽りの詩情として批判し、物質主義的な世界観に基づく荒々しいレアリスム(現実主義)を導入することで韻文詩の刷新を志すという、青年の意図と野心を明らかにする。また、詩作の過程でレアリスム美学が鍛えられ、そのことが後の散文作家を準備したことを論じる。
 第2章「演劇への挑戦」では、同じ70年代に書かれた戯曲を取り上げる。詩と同様にレアリスムの導入によって韻文歴史劇を刷新しようという著者の試みを検証し、その意義を明らかにすると同時に、それが作家に何をもたらしたかを考察する。
 第3章「小説の誘惑」においては、同時期に書かれた中短編小説と、最初の長編(後の『女の一生』)を対象とする。小説において個人的なテーマが発掘されていること、また長編小説の試みの中に作家の成長が認められることを明らかにする。その後、1880年に発表された「脂肪の塊」の分析を通して、この作品を執筆する中で、作者自身が散文の持つ可能性(その社会性・批評性)を発見したことが、詩人から小説家への〈転向〉の決定的な理由となったと論じている。
 終章においては、1870年代のすべての活動を通して、確固たる理念と技法を備えた一人の芸術家が準備されたからこそ、「脂肪の塊」以後の成功が保証されたと結論づけている。

 したがって本書の内容は、こんにちの日本ではほとんど知られていない作品を中心に扱っていることになるが、『詩集』の各詩篇、一幕劇『昔がたり』および『稽古』、猥褻な笑劇『バラの葉陰、トルコ館』、韻文歴史劇『リュヌ伯爵夫人の裏切り』、そして生前未発表の哲学的コント『エラクリユス・グロス博士』などの拙訳を本サイトで公開している。
 モーパッサンに興味を持つ一人でも多くの方に、本書と本サイトを通して、これまで知られることのなかった青年モーパッサンの姿を発見してもらえれば、それ以上に嬉しいことはない。

 追記(2018.02.23.)
 『図書新聞』、第3339号、2018年2月17日、に倉方健作氏による書評が掲載されました。「作家の歩みに付き添う端正な文章は説得的であり、心地よい」という過分なお言葉を頂戴しました。記して謝意を述べたいと思います。

 追記2(2018.12.11.)
 『日本フランス語フランス文学会中部支部 研究論集』、No 42、2018年12月、に有富智世先生による書評が掲載されました(p. 125-126.)。「本書を通して、我々はモーパッサンの心の機微に触れ、これまで知り得なかったモーパッサン像を追考し、作家の実像に迫ることができるのである」という有難いお言葉を頂きました。記して御礼申し上げます。

 追記3(2019.04.23.)
 『Chaier』、日本フランス語フランス文学会、23号、2019年3月、に大橋絵理先生の書評が掲載されました(p. 27-29.)。「詩作品で固有の世界観を提示し、戯曲で人物造形や構成方法を学び、散文で重要なテーマを見出したモーパッサンの作家としての誕生の過程を解明した刺激的な本書を読んで、評者はその後彼がいかに作家として成熟していったのかを知りたいという強い欲求を抱かされた。「あとがき」に述べられた足立氏の次作が待ち望まれる」という、貴重なお言葉を頂きました。実現を目指して頑張ります。記してここに御礼申し上げます。






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