モーパッサン「欲望」

« Désirs », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 12音節、4行1詩節で8詩節、全32行からなっている。
 1880年3月にフロベールはモモーパッサン宛の書簡の中で、この詩篇について厳しい批評を行った上で、「結局のところ、この詩篇を削除すること勧めるよ。他の作品に釣り合っていないからね」と告げている。しかしモーパッサンはこの助言には従わず、推敲の上、『詩集』に収録している。
 身体的な欲望を肯定し、浮気な恋を求める言葉は、ロマン主義的な恋愛詩に対するアンチテーゼという意味を持っているだろう。『詩集』の詩人の明確な立場表明といえる作品である。


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欲望


ある者にとっての夢は、翼を持ち、
大声を発しながら空に上がり、
指の間に、しなやかな燕を掴んでは、
夜には、暗い空の中に消えること。

別の者が望むのは、離した二本の腕を回し、
相手の胸を押しつぶすことが出来ること。
そして、腰を曲げもせず、鼻面を捕まえて、
一撃で、猛る馬を止めやること。

けれども僕が望むのは、肉体的な美だ。
僕は古代の神々のように美しくなりたい、
女たちの心に、永遠の炎が留まればいい
照り輝く僕の体の遠い思い出に。

僕に対して、どんな女性も貞淑でなければいい、
今日、一人の女性を選び、明日はまた別の彼女。
なぜなら、通りすがりに愛を摘み取りたいから、
手を伸ばして果物を摘み取るかのように。

噛み締めると、異なった味がするもの。
多様な香りが一層甘美さを際立たせる。
あてどもなく僕の愛撫をさ迷わせたい
黒髪の額から、赤髪の額へと。

僕がとりわけ熱望するのは、通りでの邂逅、
視線が解き放つ、あの情熱的な肉体、
一時間だけ、すぐに消え去るつかの間の征服、
ただ偶然の好みに任せて交わされる口づけ。

朝には褐色の女の目覚めるのを眺め、
万力のように強い力で、腕に締めつけられたい。
そして夜には、低い声で語るのを耳にしたい
ブロンドの女性、その額は月光で銀に輝いて。

それから、心乱すこともなく、噛むような後悔もなく、
軽やかな足取りで、別の幻へと向かうこと。
――この果物には、歯をつけるだけにしなくてはいけない。
奥には苦味があるものだから。


「欲望」(1880年)
Guy de Maupassant, « Désirs » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 74-75.


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